コラム

安全なUSB-Cケーブルの選び方—プルアップ抵抗と規格違反の考察

安全なUSB-Cケーブルの選び方—プルアップ抵抗と規格違反の考察

記事のポイント

  • コネクター形状によって抵抗値が定められている!
  • USB-A to USB-Cケーブルは56kΩ(56kレジスタ)必須!
  • Micro USB to USB-Cアダプターも56kΩ(56kレジスタ)必須!

気をつけるべきはA-CとMicro-C。

かなり前から問題化している、“粗悪”なUSB Type-Cケーブルと変換アダプターの存在。その判別として、『プルアップ抵抗』という抵抗値を見る方法がある。そこで改めて、USB Type-Cケーブルと抵抗値の関係を総ざらいし、安全なUSB Type-Cケーブルと変換アダプターを選ぶ指標を考えてみます。

まの

数年前にGoogleが注意喚起していた事案ですわね?

二条ねこ

そうそう!それなのであーるっ!!

砂瀧えり

USB Type-Cって、やっぱりカオスやんね……。

粗悪なUSB-Cケーブル問題

ご存知でない人もいると思うので、まず最初に“粗悪”なUSB Type-Cケーブル(USB Type-C変換アダプター)が出回っている(最近はかなり減ってはいる)問題について。

二条ねこ

要するに、規格違反なUSBケーブルが出回っているのであーる。

危険な規格違反のUSB-Cケーブルの存在。危険な規格違反のUSB-Cケーブルの存在。

遡ること、2015年11月。今から約5年ほど前に、当時のGoogleのエンジニアが、市場に粗悪なUSB Type-Cケーブルが出回っているということを警告していました。

CCとVBusの間にある『プルアップ抵抗』が本問題のカギ。CCとVBusの間にある『プルアップ抵抗』が本問題のカギ。

この粗悪なUSB Type-Cケーブル(USB Type-C変換アダプター)こそ、今回の主題である『プルアップ抵抗』が関係しており、USB-IF(USBの仕様を取り決めする団体)が定めたプルアップ抵抗以外の抵抗値を持っているUSB Type-Cケーブル(USB Type-C変換アダプター)は極めて危険というわけなのです。

極めて危険と言ってもピンと来ないかもしれませんが、前述したエンジニア曰く、粗悪なUSBケーブルを用いると、最悪の場合にはデバイスを破損させたり、発火する場合もあるとのこと。そうです。規格違反のケーブルは“たかが”ではなく、“されど”なのです。

二条ねこ

最近のUSB Type-Cケーブルで規格違反な製品は、すっかり見なくなったけど、ゼロとは言い切れないのが恐ろしいところっ!

まの

MacBook 12″が初登場したときぐらいは、かなり玉石混淆状態でしたわね。

USB-Cケーブルとアダプターの種類

USBコネクター各種のイメージUSBコネクター各種のイメージ

そういうわけで、USB Type-Cケーブルの安全性と密接に関係している『プルアップ抵抗』について見ていく前に、まずはUSB Type-Cに関連するケーブルや変換アダプターから見ていくことにします。

USB-Cケーブルの種類

  • 【A】USB Type-A to USB Type-Cケーブル
  • 【B】USB Type-C to USB Type-Bケーブル
  • 【C】USB Type-C to Micro USBケーブル
  • 【D】USB Type-C to Mini USBケーブル
  • 【E】USB Type-C to USB Type-Cケーブル

USB Type-Cに関係しているUSBケーブル類には、上記の【A】から【E】の5種類があります。ここでミソなのが、【A】のみType-Cが“親でない”であること。

これらのうち、今回の問題であるプルアップ抵抗を気にしないといけない(『56kレジスタ』が求められるもの)ものは、【A】USB Type-A to USB Type-Cケーブルが該当します。【B】〜【E】に関しては、プルアップ抵抗(Rp)ではなく、プルダウン抵抗(Rd)が定められています。

砂瀧えり

こう考えると、USBケーブルって種類多いやんね。

二条ねこ

最近だと、USB Type-A・USB Type-B・Micro USBぐらいしか見なくなったけどねー。

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USB-Cアダプターの種類

  • 【A】Micro USB to USB Type-C変換アダプター
  • 【B】USB Type-A to USB Type-C変換アダプター

USB Type-Cに関係している変換アダプター類には、上記の【A】と【B】の2種類があります。

これらのうち、今回の問題であるプルアップ抵抗を気にしないといけない(『56kレジスタ』が求められるもの)ものは、【A】Micro USB to USB Type-C変換アダプターが該当します。【B】に関しては、プルアップ抵抗(Rp)ではなく、プルダウン抵抗(Rd)が定められています。

まの

確か…USB Type-C to USB Type-A変換アダプターは、規格違反でしたよね?

二条ねこ

そうそうっ!
だから、変換アダプターはこの2種類だけであーる。

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USB-Cとプルアップ抵抗・プルダウン抵抗の相関関係

それでは、肝心のUSB Type-Cケーブル・USB Type-C変換アダプターにおける必要なプルアップ抵抗を見ていきます。

USB-Cケーブルとプルアップ抵抗

USBコネクター形状 定格電流 C側に必要なRp
(プルアップ抵抗)
C側に必要なRd
(プルダウン抵抗)
USB Type-A USB Type-C 3A 56kΩ -
USB Type-C USB Type-B 3A - 5.1kΩ
USB Type-C Mini USB 500mA - 5.1kΩ
USB Type-C Micro USB 3A - 5.1kΩ

USB Type-Cレガシーケーブルのプルアップ/プルダウン抵抗の相関表

USB Type-Cレガシーケーブルに関しては、

  • USB Type-A to USB Type-Cケーブル

のみ、56kΩのプルアップ抵抗をUSB Type-C側に求めています。

USB-Cアダプターとプルアップ抵抗

USBコネクター形状 定格電流 C側に必要なRp
(プルアップ抵抗)
C側に必要なRd
(プルダウン抵抗)
プラグ レセプタクル
USB Type-C Micro USB 3A 56kΩ -
USB Type-C USB Type-A 3A - 5.1kΩ

USB Type-Cレガシーアダプターのプルアップ/プルダウン抵抗の相関表

USB Type-C変換アダプターに関しては、

  • Micro USB to USB Type-C変換アダプター

のみ、56kΩのプルアップ抵抗をUSB Type-C側に求めています。

充電プロトコル別プルアップ抵抗

充電プロトコル プルアップ抵抗
Default USB Power
USB BC
56kΩ
USB Type-C Current@1.5A 22kΩ
USB Type-C Current@3.0A 10kΩ

充電プロトコルとプルアップ抵抗の相関表
※4.57V–5.5V間の場合。

なお、USB-IFが定められている充電プロトコル(電源供給のプロトコル)別にプルアップ抵抗をまとめると上表のとおり。

USB Type-CケーブルやUSB Type-C変換アダプターの中でも、レガシーに位置するプロトコルのみ、56kΩのプルアップ抵抗(56kレジスタ)を求められるようになっています。なので、 C to C なUSB PDなどの場合、プルアップ抵抗は気にしなくてもよいというわけです。

C to C 以外の充電プロトコル
名称 電力(W) 電圧(V) 電流(A)
Default USB Power USB 2.0 最大2.5W 5V 0.5A
Default USB Power USB 3.x 最大4.5W 5V 0.9A
USB BC Rev. 1.2
(CDP・DCP)
最大7.5W 5V 1.5A

C to C の充電プロトコル
名称 電力(W) 電圧(V) 電流(A)
USB Type-C Current@1.5A 最大7.5W 5V 1.5A
USB Type-C Current@3.0A 最大15W 5V 3A
USB PD
(PD 2.0・PD 3.0)
最大100W 5V
9V
12V
15V
20V
3A
5A

補足

プルアップ抵抗とは?

『プルアップ抵抗』とは、VBusとCC(Configuration Channel)の間に入っている抵抗のことを指します。なお、VBusは電源用のピンで、CCはコンフィグ用(表裏判定やUSB PDのネゴシエーションに利用)のピンのことです。

このプルアップ抵抗値で、ホスト側の電源供給能力を識別して、デバイスへの電流を調整しています。なので、冒頭で話したように、適切なプルアップ抵抗値になっていない場合、本来の規格よりも大きい電流が流れてしまうため、最悪の場合は機器を故障させてしまうというわけです。

56kΩケーブルでも1.5A以上の出力がある場合がある

USB-IFの規格どおりのレガシーUSBケーブルであれば、プルアップ抵抗は56kΩ。なので、最大1.5Aの電流が流れる…はずなのですが、実は世の中には56kΩなのに1.5A以上流れるレガシーUSBケーブルがあったりします。うーん、ややこしい。

その理由こそ、USB-IFの“外”に存在する、ベンダー独自の急速充電規格の存在。要は、急速充電規格を考慮したレガシーUSBケーブルでは、ちゃんと56kΩのプルアップ抵抗値を持っている(56kレジスタである)のにもかかわらず、1.5A以上の電流が流れるということなのです。

砂瀧えり

それって、結果的な危ない気がするんやけど……。

二条ねこ

Huaweiの急速充電規格(Huawei 40W SuperCharge)に対応したUSB Type-A to USB Type-Cケーブルは、最大5A流せちゃうからねー。賛否はありそうであーる。

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まとめ「C to C 以外は56kレジスタに要注意」

USB Type-Cを取り巻く56kΩのプルアップ抵抗についてまとめると…

  • USB Type-A to USB Type-Cケーブル:56kΩ
  • Micro USB to USB Type-C変換アダプター:56kΩ

ということになります。

購入前にレガシーUSBケーブルが、ちゃんと56kレジスタになっているのかの確認は、購入ページのレビューを見るぐらいしかないのが残念なところ。安全圏を狙うなら、『USB-IF Certified』のロゴマークがあるケーブルを選ぶのが、もっともベターな選び方かもしれません。

二条ねこ

USB-IF Certified認証済みケーブルって、絶対数が多くないのがネックなんだよねー。

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追記情報
  • 2020/09/05:記事を大幅加筆修正

おまけ

二条ねこ

最近はプルアップ抵抗を気にしなくてもよくなってきた感はあるけどねー。

まの

作りがしっかりとしたUSBケーブルが増えつつありますものね。

砂瀧えり

…今度はUSB PD界隈が怪しいけどね。

二条ねこ

そうなんだよねー。

おわり

■Reference
USB-IF, ゲーマーのためのUSB Type-Cケーブル購入ガイド。安心して使えるのはどれか,全29製品で安全性を検証 - 4Gamer.net, Amazon