- USB PDとは最大100Wまで電力供給できる規格!
- キモは電圧(V)を可変できるということ!
- 仕様がややこしいのでカオスでもある!
USB Type-Cって、ほんとややこしい。
USB Type-Cには『USB PD』という、最大100Wまで電力供給が可能なプロトコルがあります。そんなUSB PDの特徴・仕様・注意点を調べてみました。結果、頭がぱーんってなりました。
うーむ…。
USB PDって便利だーってオチなはずが……。
それって、どういうことなん!?
のっけから雲行きが怪しいですわね…。
Contents
『USB PD』とは?
『USB PD(USB Power Delivery)』とは、USB端子からの給電・充電を最大100Wまで可能にした、USB-IFが定めた国際標準規格のことです。
従来のUSB-IF準拠の充電規格では、実用面からいうと約15W前後が最大出力の限界値でした。それを打ち破ったのが、今回のUSB PDという規格。
従来のUSB充電規格(USB BC等)では、ノートPCやタブレットPCを充電するには限界がありました。しかし、このUSB PDの登場で最大100Wまで電力供給が可能になった。なので、大きな電力を必要とするノートPCもバッチリ充電できるようになったのです。
USBでPCを充電できるって、一昔前だと考えられないよねー!
USBと充電の関係性のまとめ表
あとで詳しく解説しますが、
5V・9V・12V・15V・20V × 3A・5A = ?W
というのが簡単なUSB PD(USB PD 3.0では12Vがない)の計算式です。
従来の充電規格と違う“キモ”と言える部分なのが、USB PDは電圧(V)が可変ということ。これにより幅広い電力供給が可能になっているというわけです。いわゆる昇圧回路が搭載されているってこと。
USB PDの概要はこんな感じだねー!
とりあえずはここまで分かっておけばOKだから、お次はUSB PDの特徴についてみていくぞー!
USB PDの特徴
USB PDの3大特徴
- 【特徴1】最大100Wの電力供給
- 【特徴2】スワップで電力供給を数珠つなぎ
- 【特徴3】電力供給が双方向で可能
そーんな素敵なUSB PDですが、特徴を知ればもっと好きになるはず!
…ということで、USB PDの特徴を順番に紹介してきます。
【特徴1】最大100Wの電力供給
1つめの特徴であり、USB PD最大の特徴なのが、最大100Wまでの電力供給を可能にしたこと。
冒頭でも話したように、従来のUSB-IF準拠の充電規格というのは電圧(V)が固定でした。なので、電力供給量を増やすためには、ただただ電流(A)を増やす必要がありました。でもでも…これって、やっぱり限界(約15Wが限界値)がある。しかも、これだとPCは電圧不足で充電が厳しい。
そこで電圧(V)を4段階(12Vを含めると5段階)で可変できるようにしたのが、この『USB PD』というわけ。
これにより、大きな電力供給が可能となり、最大100WまでUSB Type-C端子から供給できるようになったのです。
そのおかげで、最近のノートPCはUSB PDで充電できるものが大半になったんだよー!
まさに技術革新の賜物ですわね。
【特徴2】スワップで電力供給を数珠つなぎ
2つめの特徴が、USB PDで貰った電力を数珠つなぎにして、さらなるUSB PD対応のデバイスへと電力供給することができるということ。
条件としては、
- 受電側(電力供給される側):USB PD(USB Type-C端子)
- 給電側(電力供給する側):USB PD(USB Type-C端子)
という2つのUSB PD対応ポートがデバイスに必要です。
なので、理論上は最初に供給された電力が、デバイスに必要な電力供給量を下回るまでバケツリレー的にスワップできます。
しかし、現実的には2つのUSB PD対応ポートを持っているデバイスは、USB PD対応のドッキングステーションか、USB Type-C対応モニターぐらいなので、利用できるシーンは限られているとも言えます。
ベタな使い方だと、ドッキングステーションとかモニターだねー!
USB Type-C対応のモニターは増えつつあるから、今後はモニター自体がドッキングステーションになっていく感じかもだっ!
【特徴3】電力供給が双方向で可能
3つめの特徴が、従来のUSBによる電力供給とは異なり、電力供給の方向が双方向になったということ。
簡単に言ってしまうと、USB PD対応のノートPCがあったとすると、これが電力をもらう側にも、電力をあげる側にもなるということ。これを『デュアルロール』といいます。
区分 | 説明 | 例 |
Dual-Role Power | 電力をあげる・もらうの両方OK | ノートPC スマホ タブレット モバイルバッテリー |
Source only | 電力をあげるだけ | USB充電器 |
Sink only | 電力をもらうだけ | USBメモリー ポータブルSSD |
Default Source | 基本は電力をあげるだけ 接続機器で変化 |
USBハブ ドッキングステーション |
Default Sink | 基本は電力をもらうだけ 接続機器で変化 |
- |
USB Type-Cとデュアルロール。
ちなみに、USB Type-Cとデュアルロールの関係性は上表のような感じ。
USB PD搭載のモバイルバッテリーを想像してみると、電力をあげたり(機器の充電)・電力をもらったり(自身を充電)してることが分かります。なので、『Dual-Role Power』ということ。
USBメモリーが電力供給をしない…というかできるわけないので、いくらUSB Type-Cとはいっても『Source only』となります。
USB Type-Cとひとくちに言っても、USB PDに対応しているとは限らないってことですなー。うんうん。
そういえば、こういう仕組みをユーザーは知らない間に使えてるってことやんね?
自動で判断して電力供給をしてくれるからね〜♪
USB PDの仕様
ここからは…知りたい人だけ読むスタイル!
USB PDの仕様を個人的に詳しく知りたいということもあり、USB.orgを中心としたサイトを参考に(参考サイトは記事一番下に記載)して詳しく調べてみました。
ねこちゃんの検証目的用なんだけどねー。
ピンアサイン
USB PDの仕組みや仕様を知っていく上で、まず見ておきたいのが『ピンアサイン』なはず。つまり、端子の中がどうなっているかということ。
ピンアサインには、メス側である『レセプタクル』とオス側である『プラグ』が存在します。まぁ…当たり前ですよね。それらをそれぞれ見ていくことにしてみます。
レセプタクル側
こちらは、USB 3.x Type-Cのレセプタクル側。
せっかくなので、今回のUSB PDと関係ないものも含めて、すべて表示しています。
プラグ側
こちらは、USB 3.x Type-Cのプラグ側。
こちらに関しては、USB PDの通信に必要なピンのみ色をつけています。
ここから分かるように、USB PDの通信にはSS信号線(TX・RX)やUSB 2.0信号線(D)は必要ないのです。つまり、USB PDのみ独立しているということ。特に『CC』と『VCONN』の2つのピンについては、USB PDにおいて非常に重要な役割を果たしています。
パワールール
W数(PDP¹) | A数(5V) | A数(9V) | A数(15V) | A数(20V) |
0.5W以上・15W未満 | PDP/5A | - | - | - |
15W | 3A | - | - | - |
15W超過・27W未満 | 3A | PDP/9A | - | - |
27W | 3A | 3A | - | - |
27W超過・45W未満 | 3A | 3A | PDP/15A | - |
45W | 3A | 3A | 3A | - |
45W超過・60W | 3A | 3A | 3A | PDP/20A |
60W | 3A | 3A | 3A | 3A |
60W超過・100W未満 | 3A | 3A | 3A | PDP/20A² |
100W | 3A | 3A | 3A | 5A² |
USB PD 3.0のパワールール一覧表。
¹PDP:Power Delivery Power(そのアダプター全体での電力供給能力の値)
²5Aケーブル必須。
直下で話す『ネゴシエーション』に必須なのが、この『パワールール』(旧パワープロファイル)というもの。上表はUSB PD 3.0のパワールールを掲載している。
表から分かるように、USB PD 3.0では、5V・9V・15V・20Vという4つの電圧(V)が可変するようになっている。以前のパワープロファイル(記事下の備考参照)では12Vがあるが、それに関してはUSB PD 3.0ではなくなっている。ただ、USB PD対応のUSB充電器やモバイルバッテリーでは、こっそり12Vに対応しているものもある模様。
また、USB PDを5Aにて出力するためには、 USB-C to USB-C ケーブル 内に『eMarker』認証チップが組み込まれていないといけない。これに関しては後述。eMarkerチップがない場合は3A出力となる。
ネゴシエーション
USB PDの『ネゴシエーション』(給電前の給電側と受電側で特定の通信)について、順を追って見ていきます。
-
STEP.1ソースのRpを調べる
-
STEP.2シンクのRd判定
-
STEP.3USB PD対応か判断
-
STEP.4PDO内から給電開始
USB PDの注意点
- 【注意点1】5A出力は対応ケーブル必須
- 【注意点2】充電器・ケーブル・デバイスの3点を確認
USB PDで電力供給をする場合、上記の2点に注意して対応製品を購入する必要があります。
購入前に製品スペックをチェックですなー。
【注意点1】5A出力は対応ケーブル必須
USB-C to USB-C ケーブルならば、原則USB PDに対応しています。なので、必然的に3Aでの電力供給は可能。
しかし、5Aで電力供給をしたい場合、『eMarker』というチップがケーブル内に組み込まれていないといけません。eMarker非搭載の場合は、最大60Wでの電力供給になるので、100Wフルフルでデバイスを充電しないといけない場合は、eMarker搭載の5Aケーブルを購入するようにしましょう。
【注意点2】充電器・ケーブル・デバイスの3点を確認
USB PDでの電力供給をするためには、
- デバイス(パソコン・スマホ等)
- ケーブル(USB-C to USB ケーブル)
- 充電器・モバイルバッテリー
のすべてがUSB PDに対応していないといけません。
ケーブルに関しては前述のとおり、 USB-C to USB ケーブルを用意すれば、とりあえずはUSB PDでの電力供給の条件は揃います。もちろん、5Aでの電力供給はケーブルを要チェック!
充電器やモバイルバッテリーに関しては、USB PD対応と謳っている(実際に仕様が規格外とかは置いておいて)ので、そちらを購入すればOKです。
デバイスはUSB Type-C搭載のものでも、USB PDに対応していないものがチラホラ存在しています。特にパソコンはUSB PDに対応していないと、USBからの充電は絶望的になるので、しっかりとデバイスのスペックを調べるようにしましょう。
補足
USB PDの充電器・モバイルバッテリーは、かなり玉石混淆な様子。メーカーも手探りなのか、仕様がややこしいのか、当たり外れが多いイメージ。
当たり外れを調べる“購入後”のチェック項目ですな〜。
なんだか、それでは遅い気が……。
USB PD対応充電器のチェック項目
- 【1】Vbus Hot(Cold Socket)の電圧
- 【2】PDOの出力の正確さ
- 【3】競合する急速充電規格の対応状況
- 【4】Bridged CCsとRpの挙動
- 【5】過充電防止機能の挙動
【1】のVbus Hot(Cold Socket)で見ておくべきなのが、ちゃんとデバイスが接続されてからVbus(+5V電力供給信号線)に、電圧がかけられているかどうかというもの。デバイス未接続時にVbusに電圧がかかっているものはダメ(前述のネゴシエーション参照)なのです。
【2】のPDO(充電器・モバイルバッテリーがパワールール内から対応可能な充電パターン)が、USB PDに準拠した電圧(V:5V・9V・12V・15V・20V)・電流(A:3A・5A)になっているかをチェックしておきましょう。
【3】の競合する急速充電規格ですが、USB PD自体がUSB PD以外の方法で電圧(V)を変動させる充電方式と競合することを認めていません。
なので、Quick Charge 3.0以前(Quick Charge 4/4+はUSB PD互換なのでOK)や、スマホベンダー独自の急速充電規格もダメということです。
【4】のBridged CCsの挙動は、コンフィグ用のCCピン(CC1・CC2)に関係するもの。
USB Type-Cの規格上は、充電器・モバイルバッテリー側がCC1・CC2を“それぞれ”Rpでプルアップしないといけない(CDPモード的)のですが、CC1・CC2を短絡させて1つのRpでプルアップしているもの(DCPモード的)があります。後者のパターンは規格外なので、かなーり危険。特に5A充電だとeMarkerがうまく働いてくれない現象も出てきます。
【5】の過充電防止機能は、USB充電器の中には過充電防止機能が搭載されているものがある(ほぼ大半そう)。
AnkerやAUKEY、Belkinなどの大手製のものは搭載されているので、気になる人はそちらもチェックしてみるといいかも。
EDN Japanで詳しく解説しているから、そっちを見るのがいいかもっ!
USB-Cケーブルのチェック項目
- 【1】USB-IF認証済か否か
- 【2】規格外の変換アダプター経由ではないか
- 【3】C to C ケーブルにeMarkerチップ搭載か
- 【4】A to C ケーブルの抵抗値は正常か
【1】のUSB-IF認証に関しては、販売に必須な事項ではない。なので、ちゃんとした製品でもあっても、USB-IF非認証もある。形骸化してる感もややあるが、やはりUSB-IF認証済が安心なのは確か。USB-IF自体は、2019年初頭にUSB Type-Cの認証プログラムを発表しています。
【2】の規格外の変換アダプターですが、
- Micro USB Micro-B(メス) → USB Type-C(オス)
- USB Type-A(メス) → USB Type-C(オス)
以外はぜーんぶダメです。(USB Type-C Cable and Connector Specification25頁参照)
【3】の5A対応の USB-C to USB-C ケーブルの『eMarker』チップ搭載というのは、このeMarker認証チップが組み込まれていないと5AでUSB PD充電してはいけない(3AならeMarker不要)ことになっています。これは前述とおり。
なので、eMarkerチップ非搭載の USB-C to USB-C ケーブルでは、3Aモード(60W)までの電力供給となります。
【4】の USB-A to USB-C ケーブルの抵抗値ですが、AからCのタイプだと、56kΩのプルアップ抵抗値でないとダメなことになっています。
なお、USB-C@1.5Aは22kΩ・USB-C@3Aは10kΩとなっており、この抵抗値を出す USB-A to USB-C ケーブルは使わないほうが無難です。
こっちはRenesasの記事が詳しく書かれてるから、そっちも読んでみてー!
備考
USB PD 2.0 Ver. 1.1以前のパワープロファイル
プロファイル | 電力 | 電圧・電流 |
1 | 10W | 5V・2A |
2 | 18W | 5V・2A 12V・1.5A |
3 | 36W | 5V・2A 12V・3A |
4 | 60W | 5V・2A 12V・3A 20V・3A |
5 | 100W | 5V・2A 12V・5A 20V・5A |
USB PDのパワープロファイル対応表。
現在では前述のパワールールが使われているが、USB PD当初はこの『パワープロファイル』というものだった。こちらも参考値としてどうぞ。なお、各プロファイルの最大電力内であれば、ある程度の電圧(V)・電流(A)は変更をかけてもOKだそうです。
まとめ「USB PDはカオスな落とし穴だらけ」
総括すると、
USB PDって…ややこしいじゃん!!
ということに尽きます。
本来なら、さまざまな端子が1つに統一されて便利。充電もこれ1本。…なはずなのですが、黎明期ゆえか、とにかく仕様のカオスさといったらこの上ない感じ。調べたことを後悔するレベルで混沌としていました。
正解のない詰碁のような感じあーる…。
おまけ
私達もメーカー側も理解しきれていない感がありますわね。
これだけややこしいと…ね。
ユーザーは仕方ないけど、メーカー側はちゃんと仕様を咀嚼して製品をローンチしてほしいのが本音だけどねー。
そう…ですわね。
おわり
Reference:
USB.org, アリオン株式会社, USB Type-Cで逆挿入や多様な電力供給が可能に、その仕組みは? - EDN Japan, USB PD 徹底解説 - Renesas Electronics, ST USB-PD controller - STMicroelectronics, USB、「Type-C」充電の実態